引用: Pixabay
この敵性語という概念が生まれたのは1937年(昭和12年)に始まった「日中戦争」の頃と言われており、戦争相手、つまり敵国の言葉を使用するのはいかがなものか? という考えが根幹にあります。
そしてこの運動は日中戦争から第二次世界大戦へと突入すると激化。敵対国であるアメリカやイギリスが使用する英語を禁止しようとする運動が始まりました。
ちなみにこの「日中戦争」という単語すらも敵性語であり、当時の正式(?)な表記では「支那事変」ということになります。
(※「日中戦争」自体が敵性語ではなく、「中華民国」が敵性語であり言い換えは「支那」となります)
敵性語排斥運動とは?
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では、この敵性語はどのように規定され、誰がどのように取り締まり、どのような扱いを受けていたかを知っておきましょう。
【1】基本的には社会運動
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戦時中の勝手なイメージだと、国が積極的に敵性語の使用を禁止し、法律もしくは時限立法に置いて規制したと思われがちですが、この敵性語排斥運動に国は積極的には関わっていません。
敵性語を廃止し、適正な言葉に言い換えようと言い出したのは国民です。民間団体や業界団体、さらに小さいところでは商店街や町内会といったレベルで敵性語を排斥しようという運動が起こりました。
【2】敵性語排斥運動が起こった理由
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ではなぜこんな運動が民間から沸き上がったのか?
この運動が起こったのは戦時中。日本においてもっとも愛国心が強まったタイミングということになります。このタイミングで自然発生的に発生した戦意高揚のための運動といえるでしょう。
「憎き敵国の言葉を使用するなんて、戦地にいる同胞の兵隊に対して失礼である」
そんな思いから始まった運動になります。
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そもそも日中戦争の頃から始まったわけですが、敵性語となると「中国語」ということになりますが、日本の言葉から漢字を排斥してしまってはなにも表現できなくなります。
日中戦争はその後第二次世界大戦に発展しますが、その相手はアメリカやイギリス。そこで敵性語の中心は「英語」となっていきます。
敵性語を使うとどうなる?
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いわゆる市民運動で始まった敵性語排斥運動ですが、これを破って敵性語を使ってしまうとどうなっていたのでしょうか?
【1】特に決められた処罰はナシ
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上でも触れた通り、適正語の排斥は国家的な決まり事ではなく、市民運動です。
当然ながら警察に捕まったり、処刑されたりといったことはありません。しかし、ある意味刑罰よりも厳しい目に遭ったという人も少なくないようです。
【2】敵性語を使うと暮らしにくくなる
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敵性語の使用を取り締まるのは民間人同士です。その決め事に逆らうとどうなるか? 単純に暮らしにくくなります。現代風に言い換えれば、「空気の読めない言動をとったためイジメに遭う」というのと同じです。
敵性語を使うと友人知人に咎められ、それでも使い続ければ村八分になる。つまり暮らしにくくなるということです。
2019年8月現在でこれと似た現象が起きているのが韓国。諸々の問題で日韓関係が最悪の状態で、韓国国内では「日本製品不買運動」が起きていますが、これが「敵性語排斥運動」とほぼ同じ状況です。
国が不買を勧めているわけではなく、民間人が自主的に日本製品の不買運動を行っている。日本製品を買うと周囲に咎められるから買えないし、日本旅行にも行かない。でも置き換え不可な物は日本製品を使う。
敵性語排斥運動もこれと同じと考えれば間違いないでしょう。
【3】実際にあった話
引用: Pixabay
戦争体験のある方に聞くと、こういった当時の状況が分かりやすくなります。ある学生は、道で英語の教科書を開いていると、そこを通りかかった年上の学生集団に英語の教科書を取り上げられたといいます。
ちなみに当時の敵性語排斥運動は学校教育には波及。教育現場の教師たちから「英語教育も廃止すべきだ」という意見が国に届けられました。しかし当時の内閣総理大臣・東条英機陸軍大将は、「英語教育は戦争にも必須」とこの進言を却下したそうです。
ではそんな敵性語と言い換え語をご紹介していきましょう。
敵性語50選①戦時中の英語言い換え表現も合わせて紹介!
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では、戦時中に敵性語として扱われた言葉をジャンル別にご紹介します。見出しに「言い換え語」を入れていきますので、本来の「敵性語」が何なのかを想像しながらお読みください。
まずは敵性語と言えばのスポーツ関係から。
【1】<野球用語>「よし!」・「正球!」
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敵性語の宝庫として有名なのが野球です。そもそも敵国アメリカのスポーツですから、国民の間では野球自体を廃止すべきとの声もあったとか。そこで野球連盟は、野球から徹底的に敵性語を排除します。
ちなみにこちらは「ストライク」のこと。投手の投げた投球がストライクの場合、審判は「よし!」とコールしていたとか。
【2】<野球用語>「だめ!」・「無為!」・「悪球!」
引用: Pixabay
「よし!」がストライクなら当然「だめ!」は「ボール」ということに。
ちなみに当時の野球の言い換えには「よし」と「だめ」がやたらと出てきます。当時の選手は混乱しなかったのか少々不安になるほどです。
【3】<野球用語>「だめ!」・「圏外」
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と、いうことで次の「だめ!」ですが、これは野球経験のある方であれば「圏外」で想像できるかもしれません。
そうです、「ファール」のことです。もちろんこれの反語になる「フェア」は「よし!」ということになります。
【4】<野球用語>「よし」・「安全」・「占塁」
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で、この「よし」は何でしょう? 「占塁」だとイメージしやすいかもしれませんがこれは「セーフ」のこと。ちなみに「安全」というのが直訳ながらなかなか面白い言い換えです。
実況アナウンサーが「打者の脚が速かった、安全です!」とか実況していたかと思うとなかなか趣があります。
さて、「セーフ」が「よし」なら「アウト」は…?
【5】<野球用語>「ひけ」・「圏外」・「無為」・「倒退」
引用: Pixabay
「だめ」じゃないんかい! と思ってしまうところですが、「アウト」は「ひけ(退け)」となります。
なぜここまで「よし」と「だめ」にこだわっていたのに、ここでか「ひけ」という表現になったのか? なかなか興味深いところです。
【6】<野球用語>「正打」
引用: Pixabay
比較的単純で使いまわしの多い野球用語ですが、こちらはやや難題でしょう。
「正しく打つ」の意味とは?こちら「ヒット」の言い換えになります。ところで「ヒット」の言い換えなら「安打」でいいのでは?と謎が残る「正打」でした。
【7】<野球用語>「対打機関」
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さて、野球用語においては最難関の問題かもしれません。字面から想像するに、「打つことに対抗する何か」と読み取れますがどうでしょう?
正解は「バッテリー(投手と捕手をまとめて言う表現)」。これは表現としてはなかなか秀逸ですが、果たしてどの程度定着していたのでしょう?
【8】<競技名>「闘球」
引用: Pixabay
さて、野球を離れて他のスポーツの競技名です。「闘う球」ですから、格闘技のような球技が想像できます。そう、こちら「ラグビー」の言い換え語になります。
ちなみラグビーとイメージの似ているアメリカンフットボールは「鎧球(がいきゅう)」や「米式蹴球」と呼ばれていました。プロテクターが印象的だったのでしょう。「米式蹴球」に関してはほぼ直訳ですね。
【9】<競技名>「芝球(しきゅう)」
引用: Pixabay
芝生で行う球技。ということであればその数は限りないわけですが、芝生が非常に重要な役目をする球技となると「ゴルフ」ということになります。
ちなみにゴルフには「打球」という呼び方もあったとか。「打球」がまさか競技名とは思いませんでした。
【10】<特殊系>「須田 博」
引用: Pixabay
突然日本中に100人はいそうな普通の人名が登場しましたが、これもある意味敵性語を言い換えた人名になります。
こちら、戦時中に巨人でエースとして活躍していた「ヴィクトル・スタルヒン」という投手の人名になります。「スタルヒン」だから「すだひろし」。なかなかのセンスです。
ちなみにこちらのスタルヒン投手ですが、日本プロ野球界のレジェンドプレイヤーになります。ロシアで生まれ、中学生の時に一家で日本に亡命し北海道に移り住みます。プロ野球では通算303勝を挙げ、年間最多勝利(42勝)の日本記録保持者でもあります。
さらに余談ですが人名が敵性語であるとして改名を余儀なくされた芸能人も多く、あの「ディック・ミネ」さんは、戦時中「三根 耕一」と名乗っていました。
敵性語50選②戦時中の英語言い換え表現も合わせて紹介!
引用: Pixabay
人名が出てきたということでここからは会社名・学校名・地名の部門と参りましょう。
正直言い換え語を見てもサッパリ想像がつかない物が中心となります。
【11】<学校名>「横浜山手女学院」
引用: PAKUTASO
これはこの学校に通っていた人なら想像できるかもしれません。「横浜」の「山手(坂の上)」にある「女学院(女子校)」ということは?
正解は「フェリス女子学院」になります。このフェリスのように、学校名にカタカナ表記が入るキリスト教系の学校ではこうした学校名の変更が相次ぎました。
【12】<学校名>「東洋永和女学校」
引用: PAKUTASO
こちらはほぼ変わっていませんのでわかる方も多いでしょう。
「東洋英和女学校(現・東洋英和女学院大学)」のことです。繰り返しになりますが、当時の敵性語は国の政策ではなく市民運動のため、明確な指標がありませんでした。
そのため敵国の言葉(英語)だけではなく、敵国を表す漢字「英(イギリス)」すら認めないという風潮もありました。
【13】<会社名>「日本タイヤ」
引用: Pixabay
日本国内のタイヤメーカーですがどこのメーカーか分かりますか?
分かりませんよね。答えは「ブリヂストン」。ところでブリヂストンなら「石橋タイヤ」で良かったのでは?
そもそも「ブリヂストン」の社名は、創業者の石橋正二郎の苗字「石橋」をそれぞれ英訳し、英語のようにひっくり返して「ブリッヂ(橋)ストン(石)」にしたのが始まり。じゃぁこれを日本語に戻せばよかったのにと思ってしまいました。
【14】<会社名>「大日本時計」
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当時社名に敵性語が入っているという理由で社名変更をした会社には、「日本」を付ける企業が多かったようです。これも愛国心の表れなのでしょう。
こちらの社名はセイコーではなく「シチズン時計株式会社」です。ちなみにシチズンは「市民」という意味ですが、市民から一気に「大日本」とはずいぶん昇格したものです。
さらに余談ですが、同じ時計メーカーの「セイコー」は外来語ではなく「精巧」をカタカナ表記したものですので敵性語ではありません。
【15】<会社名>「日本音響株式会社」
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ということで「日本」シリーズですが、こちらはそもそも社名に「日本」が入っていた会社ですので、愛国心から「日本」をつけたわけではありません。
こちらは「日本ビクター」の戦時中社名。非常に的を得た表現の社名ですね。
【16】<会社名>「日本保育館」
引用: Pixabay
保育という単語から教育関係の会社であると想像されますが、こちらは「フレーベル館」の戦時中社名になります。
フレーベル館とは出版社です。そんなマニアックな会社知らないという方もいるかもしれませんが、こちら有名企業になります。
何しろ絵本の「アンパンマン」を出版しているのがこの会社。他にも多くの絵本を出版しており、そこから「保育館」という表現になったのでしょう。
【17】<会社名>「三澤工業」
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こちらの会社名ですが、本来の社名とは随分変わっています。この社名だけを見ると今現在も日本のどこかにある下町の工場みたいですが、こちら実は「ブルドックソース株式会社」の戦時中社名になります。
食品関係の会社が「工業」ってのもどうかと思いますが…。
【18】<地名>「中部山岳」
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こちらの地名は字面の通りなので想像しやすいのではないでしょうか?
文字通り「日本アルプス」のことです。ちなみに「アルプス」の語源には諸説あり、英語で「高山」を意味する「alp」が複数あるからという説や、ケルト語が語源であるという説などがあります。
「何語かよく分からないけどカタカナだから変えちゃえ」という当時の思いっきりが感じられる改名です。
【19】<地名>「真珠湾」
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こちらは皆さん恐らくご存知であろうハワイの「パールハーバー」のことです。
敵性語というよりは、地名を直訳しただけになります。日本占領時は真珠湾で統一していたそうです。
【20】<地名>「昭南島(しょうなんとう)」
引用: Pixabay
これはどの島の名称か分かるでしょうか?
こちらは戦時中に一時的に占領した「シンガポール」の日本語言い換え地名になります。意味は「昭和に手に入れた南の島」という非常に短絡的な意味のようです。
戦時中にはそんな島いくつもあったろうに、なぜこんな単純な地名にしたのかは謎です。
敵性語50選③戦時中の英語言い換え表現も合わせて紹介!
引用: Pixabay
続いては庶民生活に距離が近い物ということで、飲食物や文具などの敵性語、言い換え語をご紹介しましょう。
表現としては正しいけれど、言葉としてどうなのか? という単語がいっぱいです。
【21】<飲み物>「噴出水」
引用: PAKUTASO
単語だけを見せられると間欠泉か噴水かといったところですが、飲み物ということで正解は「サイダー」。戦時中に炭酸の入ったソフトドリンクと言えばこの噴出水が定番でした。
これは非常にしっくりくる言い換えですね。
【22】<飲み物ブランド>「大東亜」
引用: Pixabay
これは言葉からは想像しにくいブランド名でしょう。
「大東亜」とは日本・中華民国などを中心にした、東アジアおよび東南アジアをまとめて指す言葉で、1940年(昭和15年)当時の近衛文麿内閣が使用した「大東亜共栄圏」という言葉で有名な単語です。
紅茶ブランドの「リプトン」がなぜ大東亜になったのかは謎です。
【23】<食べ物>「洋天(ようてん)」
引用: Pixabay
これは比較的イメージしやすい言い換えでしょう。
読んで字のごとく「洋」風の「天」プラですから答えは「フライ」ということになります。恐らく使い方としては「鶏笹身の洋天」で「ささみフライ」といったところでしょう。
【24】<食べ物>「軍粮精(ぐんろうせい)」
引用: Pixabay
この言葉を見て何を表しているのかピンときた方はなかなかセンスがあるというか、博識な方とお見受けします。この三文字を分解するとすれば、「軍人が兵粮として携帯した精がつく食べ物」といったところでしょうか。
正解は「キャラメル」です。実際に日本軍は長くこのキャラメルを非常時の携帯食として持ち歩いていました。
【25】<食べ物>「麪包(めんぽう)」
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さぁ、いかにも中華料理店で出てきそうな言葉が登場しました。しかしこちらは中華料理ではございません。ちなみに「麪」の文字の意味は「小麦粉。および小麦粉を練った生地」というもの。
この意味と敵性語ということを考えると答えが出た方もいるのでは?正解は「パン」です。つまり「アンパン」は「あんこ入り麪包」ということになるのでしょうか?
ということは「アンパンマン」は「あんこ入り麪包人」?取り急ぎ強そうなイメージは沸かない名前になりますね。
【26】<食べ物>「油揚げ肉饅頭(あぶらあげにくまんじゅう)」
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さて、とんでもない名称の食べ物が登場しました。もはや食べたいと思わないほどの迫力ある名前ですが、こちら「コロッケ」の言い換え語になります。
いやいや、コロッケは肉よりジャガイモにフォーカスした方が伝わりやすいような気がしますが。いずれにしても何やらスプラッター映画のタイトルになりそうな名前で、正直まずそうですね。
【27】<食べ物>「辛味入汁掛飯(からみいりしるかけめし)」
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もはやここまで名称を変えてまで「カレーライス」を食べたかったのかと当時の方に問いたい気分でいっぱいです。
つまり現代では「カツカレー」のカタカナ5文字で表現できるおいしい料理は、戦時中「豚肉の洋天乗せ辛味入汁掛飯」というなかなかパワフルな名称で注文しないと出てこないというわけでしょうか。
【28】<食器>「肉刺(にくさし)」
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もはや、殺人現場で発見された凶器にしか見えない名称ですが、特に珍しい調理器具でも、中世ヨーロッパの拷問器具でもありません。こちらは「フォーク」のこと。
つまりあれです。「豚肉の洋天乗せ辛味入汁掛飯」を頼んだものの「匙(さじ)」しか出てこなかった場合は、「すみません、肉刺ください」とフォークを頼むわけですね。
【29】<文具>「二軟」・「一軟」・「中庸」・「一硬」・「二硬」
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これは非常に想像しやすい言い換え語かと思います。「鉛筆」自体は敵性語ではないわけですが、その芯の硬さを表現する「HB」とか「2B」とかが敵性語となるわけです。
もちろん「軟」が「B」のことで、「硬」が「H」のこと。「中庸」は中間なので「HB」ということになります。
【30】<文具>「文回し(ぶんまわし)」
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日常的に使う文具は比較的敵性語が少ないものです。鉛筆・消しゴム・定規・下敷きなどなど。どちらかと言えば日本語のものが多い中、確かにこれはカタカナ表記しかないなという文房具が正解になります。
「文」はともかく「回し」がヒントであり、正解は「コンパス」になります。
敵性語50選④戦時中の英語言い換え表現も合わせて紹介!
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続いても日常生活で使うことが多い単語のジャンルを集めました。
交通関係、ファッション関係、動植物の名称などです。
【31】<交通>「背背(はいはい)」
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これは文字を見ると分かるかと思いますが、車や電車が「バック」すること。
確かに文字で表現すればこうなるのは分かりますが、言葉として考えるとなかなかおかしいものに。道端で車を誘導している人が「ハイハイ! ハイハイ! 停車!!」と叫んでいたかと思うとなかなか笑えるものがあるのではないでしょうか?
【32】<交通>「円交路」
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こちらは駅前などでよく目にするものですね。正解は「ロータリー」。
基本的にロータリー内に交差点はないわけで、「交」の文字が何となく気持ち悪いですね。
フランスの凱旋門の周りのような、「ラウンドアバウト(環状交差点)」の言い換え語であれば分かるのですが、シンプルに「円路」で良かったような気もします。
【33】<交通>「前面硝子掃除機」
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これはもう見たままなのですが、「辛味入汁掛飯」同様、そこまでして敵性語を排斥したかったのか?と疑問に感じてしまう言い換え語です。答えはもちろん「ワイパー」。
このほかにも車の部品は敵性語が多く、「エンジン=発動機」、「アクセルペダル=加速践板(かそくせんばん)」、「シリンダー=気筒」などなど。
【34】<交通>「無限軌道」
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これはなかなか秀逸な言い換え語といえます。言葉自体もなかなかかっこいいですし、つい使ってみたくなる言い換え語ではないでしょうか? こちらは戦車などでよく見る「キャタピラ」の言い換え語。
使ってみたくなるほど出来の良い言葉ですが、問題は日常会話で使う機会がまずないことでしょうか?
【35】<動物>「袋鼠(ふくろねずみ)」
さて、動物編ではやはりこの袋鼠が最強でしょう。別に慣用句の「袋の鼠」にかけているわけではありません。恐らくみたまんまを表現したつまりなのでしょうが、大きなツッコミどころが。
こちら正解は「カンガルー」。確かに袋はありますし、顔だけ見れば鼠というのも分からなくありません。しかし、いくら何でも大きさが違いすぎかと思いませんか?
【36】<植物>「鈴懸樹(ずかけのき)」
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「スズカケノキ」という単語を何となく聞いたことがあるという方もいらっしゃるかと思います。これはこの植物になる果実が鈴のような形をしていることから、「鈴を懸ける木」ということで命名されました。
この植物の正体は「プラタナス」。街路樹でよく見かける木になります。
【37】<植物>「天竺牡丹(てんじくぼたん)」
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こちらも「鈴懸樹」同様なかなかロマンチックな言い換えですね。
植物はこうしたロマンチックな名称が目立つような気がします。こちらは「ダリア」の言い換え語。インドの方面から輸入された、牡丹のような花という意味でしょう。
【38】<植物>「風信子」
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「風を信じる子ども」だなんてロマンチックじゃないかと思いました?思った方に悲報です。この言い換え語、読み方は「ひやしんす」。
そのまんまやないかい! という皆さんの心の叫びが聞こえるようです。ここまでいろいろと言葉を変え、一生懸命日本語で表現してきた敵性語。なぜヒヤシンスだけ諦めたのでしょうか。
【39】<ファッション>「皆入袋」
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さて、ここからはファッション関係の敵性語・言い換え語をご紹介しましょう。
まずはこちら「皆入袋」。果たして本当に「皆」が入るかどうかは微妙ですが、こちらは「ハンドバック」の言い換え語になります。
【40】<ファッション>「電髪」
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一見「怒髪天を衝く」のような迫力を感じる言葉ですが、こちらも比較的文字通りの意味になります。
これは「パーマネント」という敵性語を言い換えた言葉。つまり当時のご婦人は、「電髪(パーマ)をあてて逢引き(デート)に出向き、接吻(キス)をしていた」わけですね。
敵性語50選⑤戦時中の英語言い換え表現も合わせて紹介!
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さて、最後のブロックになります。
ここで紹介するのはテレビ関係と音楽関係の敵性語と言い換え語の紹介です。
【41】<テレビ>「放送員」
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テレビ放送における敵性語も数多く自主規制されています。
まずはこちら放送員。学校で「放送委員」と言えばお昼の放送などを流す係の方ですが、戦時中のテレビ業界では「アナウンサー」を「放送員」と置き換えていました。
【42】<テレビ>「送話器(そうわき)」
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こちらは比較的直訳した感じの言い換え語になります。
「話を送る器」ということですから、これは「マイク」のことになります。
【43】<テレビ>「報道」
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こちらも比較的わかりやすいかもしれません。テレビで報道ですから意味はそのまま「ニュース」のこと。つまり当時のテレビ局ではこんな会話が行われていたということ。
「報道を行う放送員が送話器をつけ忘れて大変だったわ」
ええ。なんかちょっと堅苦しい気がしますね。
【44】<楽器>「洋琴」
引用: Pixabay
ここからは音楽関係の敵性語を見ていきましょう。
まずは洋琴ですが、こちらは聞いたことがある方もいるかもしれません。こちらは「ピアノ」の言い換え語。ピアノは西洋の琴として扱われていたわけです。
【45】<楽器>「喇叭」
引用: Pixabay
こちらは読み方が分かると何となく正解に近づく言い換え語です。こちら読み方は「らっぱ」。つまり敵性語であるトランペットの言い換え語になります。
楽器の言い換え語で比較的表現が易しい、言葉として仕上がっているのはここまで。ここからはなかなかシュールな言葉が続きます。
【46】<楽器>「瓢箪型西洋三味線」・「提琴(ていきん)」
引用: Pixabay
そろそろ言い換え語が怪しくなってきますが、言葉を分解すると伝わるかもしれません。
「瓢箪型」で「西洋」の「三味線」ですから、まずは弦楽器であることが分かります。しかし、オーケストラで見る弦楽器の多くは瓢箪型であり、これだけでは分かりません。
そこでヒントになるのが「堤」のように弾く「琴」。恐らく肩の上に担いで弾くのでしょう。こうなるとヴァイオリンかビオラの二択ですが、正解は「ヴァイオリン」。ちなみにビオラは「中堤琴」になります。
【47】<楽器>「金属製先曲がり音響出し機」
引用: Pixabay
もはや楽器の名前かどうかも怪しい表現になっていますが、こちらも楽器の名称になります。
「先曲がり」というのがヒントでしょうか? 金属製ですから金管楽器であり、先が曲がっている。つまり「サックス」の言い換え語になります。
すると「アルトサックス」は「低音専用金属製先曲がり音響出し機」というさらに面倒な名称だったのでしょうか?
【48】<楽器>「妖怪的四弦」・「大提琴」
引用: Pixabay
堤琴がヴァイオリンで、中堤琴がビオラですから、順番的に大堤琴は「コントラバス」ということになります。
それにしても「妖怪的四弦」というのはどういう意味でつけられたのでしょう? 謎が広がります。
【49】<楽器>「抜き差し曲がり金真鍮喇叭」
引用: Pixabay
もうすでに読むのも面倒になるような楽器名になっています。
読み方は「ぬきさしまがりがねしんちゅうらっぱ」。ポイントは「抜き差し」でしょうか。金管楽器でラッパの形状をしていて、抜き差しするもの。つまり「トロンボーン」ということになります。
【50】<音楽>「ハ・ニ・ホ・ヘ・ト・イ・ロ・ハ」
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これはご存知の方も多いでしょう。
音階の日本語表記となり、意味は「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」ということになります。敵性語・言い換え語を50語選んで紹介しているこの記事において、最後の50個目としてはインパクトが少ないかと思います。
しかしこちらツッコミしがいのある言い換え語なんです。理由は「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」。この音階の表記は正直「敵性語」ではありません。何しろ「イタリア語」ですから。なんか勢いでこちらも言い換えてしまったのでしょうか?
さて、余談ですがなぜ音階が「ド」からではなく「ラ」から始まっているかご存知ですか?
その理由は11世紀まで遡ります。当時男性が出せる一番低い音が「ソ」の音だったとか。この「ソ」の音を「γ」で表し、その上の「ラ」からA・B・C・Dと音を割り当てていきました。
そして合唱をするとき、γABCDEFの7つの音から真ん中にあるCの音を基準にするのが基本となり、この時から「C」つまり「ド」の音が基準として考えられるようになったわけです。
日本語音階もこれに合わせて「ド=ハ」でスタートしています。
意外なあの言葉も敵性語だった!
引用: Pixabay
いろいろなジャンルから敵性語とその言い換え語を見てきました。
ちなみにこの敵性語に関しては、さほど強い拘束力はなかったといいます。そんな事情を表す言葉や、意外と現代にも残っている敵性語・言い換え語についても調べてみました。
【1】大企業は敵性語のまま業務を続行
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ここまで書いていると日本中から敵性語が消えたかのようにも思われますが、実はそんなことはありません。企業などの中には敵性語の社名で通した企業もあります。代表的なところで言えば「ナショナル(現・パナソニック)」や「シャープ」があります。
もっと極端な話をすれば、「零戦」の読み方は「ゼロセン」。敵性語を気にするのであれば、「ゼロ」ではなく「れい」が正解。そもそもゼロセンの正式名称は「零式艦上戦闘機(れいしきかんじょうせんとうき)」です。
普通に敵性語を意識すれば「レイセン」になるべきですが、結局ゼロセンの愛称が使われていました。
【2】結局は民間レベルの自主規制
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結局敵性語狩りは民間レベルで行われた自主規制の域を出ない運動だったことが分かっています。
イメージとしては英単語を間違って使用してしまうと、軍人さんに「敵国の言葉を使うとは何事か!」と殴られるイメージですが、実際そんな話は都市伝説レベルだったようです。
【3】今も残る敵性語排斥運動の跡
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では現代でも敵性語排斥運動の痕跡は残っているのでしょうか?
野球用語では盗塁や本塁打などは現在でも普通に使われていますし、エンジンを発動機や、ソナーではなく音波探知機などという使い方は残っています。
また、自動車を購入した際の取扱説明書には、いまでもヘッドライトを前照灯と書いたりしていますので一定数言い換え語が生き残っているといっていいでしょう。
決定的に残っているのが出版社の「旺文社」。実はこの社名、戦前までは「欧文社」でしたが、敵性語排斥運動をきっかけに社名を変更。現在でも変更後の旺文社が社名として使われています。
第二次世界大戦中に、戦意高揚という意味で始まった敵性語排斥運動。これは国家的な運動ではなく、あくまでも民間レベルで行われた市民運動、自主規制運動でした。
この敵性語排斥運動により、多くの言い換え語が誕生し、その面影を感じられる言葉が現代にも伝わっています。
ただし、厳しく規制されていたわけではなく、実際に軍部が敵性語を使用していたり、企業名も敵性語のままというケースも多く、一部ナショナリズムに目覚めた民間団体が急激に推し進めた運動ととらえていいでしょう。
今回はどちらかというと「敵性語とその言い換え語を楽しむ」記事になりましたが。これから何年経っても、「あの頃こんなことしていたんだ」と笑える平和な世の中が続くことを願ってやみません。